男性の更年期障害で問題になりやすいのはEDの問題です。
EDとは「erectile dysfunction」の略語で、勃起障害を意味し、「勃起の発現あるいは維持ができないために、満足な性交ができない状態」という定義が一般的です。
目次
更年期のEDの原因
正常な勃起機能の発現には、神経、血管、ホルモン系に加えて、精神的な因子が深く絡み合って成立します。
これらの因子の一つ、多くはニつ以上が障害されるとEDを発症すると言われています。
これまでは、EDの多くは心因性と考えられていましたが、最近では混合型(いろいろな病気が合わさって発現したもの)や器質性(神経や血管の障害)と診断されるケースが増えてきました。
さて、更年期世代の男性ではどうでしょうか。
仕事上の重圧、肉親との永遠の別れや病気の介護、子供の巣立ち、長年連れ添った妻との不和など、さまざまなストレスに晒されるため、更年期男性は心因性EDが多いようです。
ですが、なかには糖代謝異常が発見されたり、アルコール依存症だったりする場合や、長期に投与されている降压剤、抗溃瘍剤などの薬剤の影響が考えられる人がいます。
更年期男性にもバイアグラは効く?
バイアグラの仕組み
大脳に性的刺激が加わると、その興奮が脊髄、背盤神経、陰茎海綿体神経の順に降りていき、神経末端から神経伝達物質の一酸化窒素が分泌されます。
一酸化窒素は、陰茎海綿体平滑筋内のグアノシン・3燐酸(GTP)をサイクリック・グアノシン・3燐酸(CGMP)に変えますが、このCGMPは強い平滑筋弛緩作用を持つので、陰茎海綿体内の動脈を拡張し、流れ込む血液量を増加させることで、勃起が起こるわけです。
バイアグラは、CGMPを加水分解するホスホジェステラーゼ・タイプ5(PDE-5)という酵素を選択的に阻害するため、この薬を投与すれば、組織内にCGMPが蓄積して、誘発された勃起の完成・維持を進める働きをします。
バイアグラの副作用
なお、PDE-5以外のサブタイプにも抑制効果があるので、PDEの他のタイプの酵素が分布している網膜や冠動脈に作用し、頭痛・血圧降下・色覚異常・ほてりなどの副作用をもたらすことがあり、ニトロールなどの硝酸剤を投与されている狭心症や、心筋梗塞の患者さんへの投与は、絶対禁忌とされています。
EDの患者20名(30歳から68歳、平均57歳)に、バイアグラ25ミリグラムまたは50ミリグラムを一回量として投与したところ、セックスが可能になった人が80パーセントに上ったといいます。
勃起の発現時間は服用後40分から2時間(平均1時間)、持続時間は5分から30分(平均12分)で、副作用として、ほてり感が8例、頭痛が2例、胃腸症状が1例認められたが、いずれも一過性の軽微なものでした。
多くの男性はED治療に行かない
なぜ、多くの患者さんは沈黙したままで、治療を受けに行かないのでしょうか?
羞恥心、次に自尊心が傷つくからでしょうか?性的な悩みをオープンに話し合う土壌が、もともと育っていないからでしょうか?
一部のドクターたちの無理解もあるかもしれません。例えば、癌の手術後の性的悩みは、「命が助かったのだから、セックスができないなんて大した問題じゃない」と、すげなくあしらわれることもあるようです。
年配のドクターのなかには「私は、自然に逆らうような治療はしたくない」と、あっさり診察を断る人がいると聞きます。受け皿がまだまだ足りないようです。
バイアグラの入手方法
さて、もしあなたがEDに悩んでいて、熟慮の末、勇気を出して相談に行こうと思ったら、どうするでしょうか?
製薬会社に問い合わせて、近くの(あるいは遠くの)医療機関のリストを手に入れて、どこにかかるかを検討することでしょう。
「遠く」というのは、自宅や会社の近くでは、知人に出くわす可能性があるので、避けたいと思うのが人情です。
いろいろな検査をされたくないなら、直近の健康診断の結果のコピーを持参し、内科系のクリニツクに行くことをおすすめします。
受付をすませ、ドクターに既往歴、お酒とタバコの有無、いつからうまくいかなくなったかを話すと、問診票というのを渡されます。
問診票を書いて、循環器に問題がなかったら、バイアグラの処方箋がもらえるでしょう。
薬局に行くのが嫌だったら、院内で出してもらえないか、聞いてみることです。ドクターは、「バイアグラ錠を適正にご使用いただくために」という小さなパンフレットを渡し、「飲む前に、必ず読むように」と言います。
大切なのは、一錠服用して、効かなかったとき、続けてもう一錠飲むのだけはやめてほしい(血圧が急に下がって、死亡することがある)。
また、自分に有効だったからといって、友だちにプレゼントしてはいけません。
効きすぎて、翌日まで勃起が続いたら、すぐにドクターに連絡するなどいくつかの重大な約束事が記載されています。
バイアグラ処方は、自費診療なので、費用として初診料が5000円から50000円(高いのは1000円から3000円くらいが相場です。
バイアグラを求めて病院を訪れるED患者さんの半分くらいの方が、更年期世代だといいます。
その他のED治療法
バイアグラ以外のED治療法をご紹介します。
男性ホルモン補充療法
明らかにテストステロンが減少していて、ホルモン不足が性機能を損ねていると診断されたケースには、テストステロン補充療法が行われます。
エナント酸テストステロン125ミリグラムを、2週間ごとに筋肉注射するのですが、80パーセント以上に有効とされています。
体調がよくなった、気力も出たという人は、70パーセントいるといいます。
ただ、テストステロン投与により、前立腺癌が発症しやすくなったり、発育を促進するという事実が、以前から指摘されているため、このホルモン補充療法は、泌尿器科の専門医によって、注意深い経過観察のもとに行われるベき治療法でしょう。
欧米では、女性の更年期障害に、少量のテストステロン投与を勧める学派があり、性器の萎縮を防いだり、活力を高めたり、失った性欲を取り戻すためにといった名目で、治療を行っているドクターがいるが、まだあまり一般的ではありません。
漢方療法
EDの治療薬として、漢方薬として保険診療で認められているのは、次の4種類です。
- 八味地黄丸
- 補中益気湯
- 桂枝加竜骨牡瞩湯
- 柴胡加竜骨牡瞩湯
一番使われているのは八味地黄丸ですが、治療効果がどのくらいあるのかは、研究者によって評価が分かれています。漢方の専門医によれば、60パ—セント以上有効とされています。
心理療法
心理的な要因により引き起こされるEDを、心因性EDと呼び、心理療法が治療の主軸となります。
心因性EDには、現実心因に基づくもの(例えば夫婦間のトラブルのような日常の生活の場で起こるもの)と、深層心因に基づくもの(心の奥底に潜む怒り、葛藤、ねたみなど)とがあります。
一般のドクターが扱えるのは、カウンセリング、支持的精神療法、自律訓練法といった基本的治療法を用いる現実心因性EDにとどめ、精神分析が必要な深層心因性EDは、すみやかに心理の専門家に任せるべきです。