Rさんは55歳。事務職。独身。
子宮筋腫があって、44歳のとき子宮摘出手術を受けました。40代後半から、ほてり・のぼせ、頭痛、イライラなどの不定愁訴に悩まされるようになりました。
がん治療後の不眠
自宅近くの婦人科医から、女性ホルモン剤のプレマリンの少量投与を受けたところ、症状は劇的に改善し、「生きている歓び」を感じたのだと言います。
何年か、その充実感は続いていたのですが、52歳で左乳癌が発見されました。
癌はまだ初期だったのだけれど、彼女は温存療法を選ばず、全摘を希望しました。手術した外科のドクターは、後潦法として男性ホルモンの投与を行っています。
さて、手術から一年が過ぎ、最近、Rさんはかつて経験した不定愁訴に、再び悩まされるようになりました。一番堪えたのは不眠でした。目の下にクマを作って、私のクリニックを訪れたのが、3力月前です。
乳癌の治療後は女性ホルモン剤は使えない
彼女は、プレマリンを処方してもらえないかと懇願しました。これまでの病歴(全摘したとはいえ、乳癌を患い、男性ホルモン剤投与を受けている)から、女性ホルモン補充療法をするわけにはいきません。
説得には20分ほどかかりました。目下の最大の問題である不眠には、睡眠導入剤、イライラと不安感には自律神経調節剤が処方され、様子を見ることにしました。
1週間後、Rさんの目の下のクマはかなり薄れており、気分は少しよくなったようでした。
漢方薬「桂枝茯苓丸」で不眠が良くなる
体格はガッチリとした固太りの人なので、漢方の「桂枝茯苓丸」の服用を勧められました。
さらに2週間後、Rさんは「ずいぶん気分がよくなりました」と、明るい声で来院しました。
生来、陽気で頑張り屋だったのですが、乳癌の手術を受けた後から、「死」を意識して、ひどく落ち込み、どんどん体調が悪くなったのだそうです。
「眠れないから、あれこれと悲しいことばかり考えてしまう。すると、もっと眠れなくなるという悪循環だったのですね。お薬を飲んで、眠れるようになると、朝すっきりと目が覚めて、気持が楽になりましました。もう大丈夫です」と、彼女は言い、現在は漢方療法だけを続けています。